Dr.すてふの備忘録@岐阜

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【本業の医学】【COVID19特集1】NEJM:重症COVID19に対するHIV治療薬の有効性:RCT

こんにちは、stayFoolish@研修医です。

 

冬着はもう暑い季節になりました。

そう、開花宣言したみたいですね。4月には散ってそうだなー。

まあ、花見会はさすがにコロナさんの影響でできないでしょうな。

 

コロナによる国際情勢の行く先はよくわからないことになっていますが、

季節だけはいたずらに過ぎ去っていくようです。

 

今回はNew England Journal of Medicine(NEJM)なるものを読んでみます。

医学界では最も権威ある雑誌になります。

 

ファッション雑誌界の「with」

NBAの「ステフィン・カリー」

競馬界の「クリストフ・ルメール

 

医学界の「NEJM」

みたいな関係ですね(笑)

 

NEJMは、アプリでweekly surmaryなるものを配信しています。

週一回、木曜日に25分くらいのpodcastですかね。

とりあえず、これ聞いとけば遅れないな、と思って。

 

COVID19で気になったことあれば、やってきましょうかね。

さあさあ、内容でございます。

 

 A Trial of Lopinavir-Ritonavir in adults Hospitalized with Severe Covid-19;

Bin cao, M.D, et al; March 18, 2020, NEJM

 

http://https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001282?query=featured_home

論文背景

SARS-CoV-2によるウイルス感染症COVID19におけるHIV治療薬(ロピナビル・リトナビル)の有効性は明らかではない。

ので、今回重症例に限ってやってみました、とのこと。

 

きっかけは、2003年SARSにおいて同薬が重症化予防、具体的にはAcute Respiratory Distress Syndromeや死亡、に効果が見られたから。

 

MERSのときは、症例不足もあり、結局よくわからんかった。

 

LOTUS Chinaとトライアルが名付けられた模様。

 

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僕の大好きなコーヒーのお供でございます。

ちなみにLOTUSは日本語で蓮。

また、ギリシャ神話で出てくるよう。

 

現世を忘れ夢心地になれると言われる実をつける植物だそうで。

たしかに、疲れた時の現実逃避の味がするお菓子です。オイシーノヨホンマニ

 

*ロピナビル・リトナビル(カトレア®):プロテアーゼ阻害薬

方法

・open-label RCT。

武漢のJin Yin Tan Hospitalにて。

・参加基準は以下全てを満たす。

1. 18歳以上の男女(妊婦除く)

2. PCR陽性で胸部CTで肺炎像がある。

3. SaO2が94%未満、もしくはP/F 300未満。

・ロピナビル・リトナビル群(400 mg/day)と通常ケア群に無作為割付。

・14日間。

・Intention to treatment解析。

 

Primary Endpointは、臨床的な改善に至るまでの時間。

Secondaryとしては、28日の死亡率。

 

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open label RCTとは、介入群と非介入群の各々が受けている治療を知っているということ。

 

まとめると、

HIV治療薬で改善するかどうかがみたいということですな

それを改善に要する時間で比較しようと

 

死亡率が高くないから、死亡率の差を比べるのではなく

改善までの時間で有意差を狙ったのでしょうか。

ちょっとわかりませぬ。

結果

 ・Primary Endpointの臨床的な改善に要する時間は両群で有意差なし(ハザード比1.31 (0.95-1.85), P=0.09)

・28日死亡率は有意差なし。 (19.2% vs. 25.0%; difference, −5.8 percentage points; 95% CI, −17.3 to 5.7) or the modified intention-to treat population (16.7% vs. 25.0%; difference, −8.3 percentage points; 95% CI, −19.6 to 3.0)

ICU滞在期間は介入群で短縮。(median, 6 days vs. 11 days; difference, −5 days; 95% CI, −9 to 0)

・14日時点での臨床的に改善した患者の割合は介入群で増加。 (45.5% vs. 30.0%; difference, 15.5 percentage points; 95% CI, 2.2 to 28.8) 

・治療中のウイルスRNA量は両群で有意差なし。

・介入群で悪心嘔吐、下痢などの消化器症状の副作用がみられた。

 

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考察

 ロピナビル・リトナビルは通常ケアに比べ、臨床改善に至る時間、死亡率、咽頭のウイルス量、はともに変わらない。

 

 

ここからは僕の意見も交えて考察します。

本論文では、PCR陽性で肺炎がある症例に対するHIV治療薬の有効性を論じた。

 

有効性とは今回は臨床改善時間、死亡率、ウイルス量のことであった。

 

重篤な副作用がロピナビル・リトナビル群で増加していないため、安全面では担保されている。

 

また、臨床改善率(改善度の割合)やICU在院日数の改善がみられていることより有効性は、いまだ残している。

 

つまり、重症肺炎例において害はないが、効果はあまり期待できないということができる。

 

一方で、死亡率を改善しないため、あえて使う必要もないという意見もあるだろう。もっともだと思う。

 

注意すべきは、このトライアルは肺炎になってからロピナビル・リトナビルを投与されたという点であると考える。

 

COVID19による肺炎は間質性肺炎がほとんどで、発症から2週間で重症化することが問題視されている。つまり肺炎がCTで認められてからでは「すでに時遅し」かもしれない。

 

新たなトライアルが必要だと著者も言っている。

早期からのロピナビル・リトナビルや他の治療薬が肺炎進展予防に効果があるかどうかが個人的には気になるところだ。

 

ざっくりまとめると

肺炎になってから薬(HIV治療薬)を始めても効果が乏しい

といってもよいだろう。