Dr.すてふの備忘録@岐阜

旅と、競馬と、時々医学。

【医学目線で書評】泣くな研修医

こんにちは。stayfoolish@研修医です。

 前回の更新からはや2か月がたとうとしてしまっております。

というのも、自分の心に余裕がなかったからなんです。ヨユウトアソビゴゴロ...

 

5月の連休明けから本格的に救急外来の仕事が任されるようになりました。何をするにあたっても葛藤の連続で、患者さんのみならず医療スタッフとのコミュニケーションに苦戦を強いられてばかりでした。

 

チョー基本的な物品の場所すらも全く分からず、上手な「聞き方」を模索する日々でもありました。

 

6月は外科のローテーションでした。始まって2日目の夜に消化管穿孔が2件来て、その日は一睡もできず、夕方のカンファで意識障害になっていたのを思い出します。肉体的にも厳しい外科ローテですが、個人的には精神的にかなりキツかったです。

 

そんなこんなで、精神的に追い詰められていた私にとって、読書の時間は非日常を味わえる嗜好の時間でした。特に、本屋で本を選んでいるときの時間が本当に恍惚です。

 

そしたらこんなタイトルの本が目の前に!

 

 

すぐさま手に取り、裏表紙の説明を読み、即決で購入しました。これがこれが、僕の外科研修の気持ちを代弁してくれていて、それでなお超感動作に仕上がっております。外科研修で自分が体験したことがほとんどそのまま詰め込まれており、個人的な感情移入もあり、3回ほど枕を濡らしました。スミマセン

 

今回は書評と外科ローテの感想をつらつらと。

著者について

現在40歳の現役外科医の中山裕次郎先生。圧倒的リアリティーで描かれる新人研修医の外科研修での心の葛藤を描いています。

 

news.yahoo.co.jp

YahooJapanのコラムも担当しています。作家でもあり、やはり医療のみならず、社会を観察する視点や文章力が素晴らしいと感嘆しております。

作品の概要

研修医は絶対に読んでください!必ず!

そこらの手術書や教科書よりも心に響く、研修医としての在り方に気付かされます。

 

医療従事者でない方にもおすすめです。これが、リアルな現場で、ポーカーフェイスな医師の心情がこれほど綿密に描かれている作品は、やはり現役外科医で多くの辛酸をなめてきた作者だからこそだと感じます。

 

ザックリと概要です。

研修医・・・

医者と非医療者の境界線に立った人間

そんな研修医が自分の無力さに打ちのめされながらもガムシャラに命と向き合い、成長していく姿が描かれています。

 

登場する患者さんを3人pick upします。

①5歳男児。高エネルギー外傷で腸管脱出、多臓器損傷があり、緊急ダメージコントロール手術を行い、ICU管理となった。主人公は毎日回診に行き、回復を祈るものの、状態は不安定そのもの。抜管できたと思いきや、嘔吐から誤嚥し再挿管。ICU退出するも、腸管拡張が増悪傾向で再手術も考えられたが、奇跡的に「おなら」が出ることによって状態は回復していった。

②94歳男性。重度の認知症があり、ADL寝たきりで独居のStage3胃癌。主人公は正義感から手術すべきとプレゼンするが、上級医は総意でBSC。「なんでだよ」と葛藤する主人公。本当の幸せとは何なのだろうか。

③25歳男性。大腸癌の多発肝転移/肺転移、腹膜播種があり化学療法中。癒着性腸閉塞で入院した。主人公とは同い年であり、実は患者さんは医学部受験に失敗している。初めての看取りを経験し、自分の無力さを痛感する。

考察・批評

直前の外科ローテもあり、外科医に対する考え方や印象がガラッと変わりました。

 

以前は、外科の先生は全身管理があまり得意でなかったり、抗菌薬の使い方がめちゃくちゃだったり、カルテがpoorすぎて意味わからんなどといったマイナスイメージばかり抱いていました。確かにそれは事実な部分もある・・・

 

外科ローテでの感想も含めて少々・・

 

 当初から抱いていた外科医の印象は同じ職場で働くことで大きく変わりました。以前は偏った見方しかできておらず、見解が狭かったことを思い知らされました。この2年の研修期間はほぼ毎月研修科が変わり、それはそれで非常にストレスフルですが、医師人生で二度とない経験が得られると思います。内科は個人的に好きで、学問的に多くを学びましたが、各々の科でスタンスが異なり、それを客観的に分析してまとめていきたいと思ってます。僕はおそらく将来的に様々な病院に勤務すると思うので、それらを比較して自分なりのプロブレムリストをまとめていきたいと思ってます。

 

印象に残ったのは「内科は診断学、外科は治療学。」とオーベンに言われたこと。診断のための画像の見方と手術をイメージする立場としての画像の見方は全くもって深みが違いました。一瞬で血管の走行を把握し、合併症を予測して手術のイメージをするのには驚かされました。

 

うちの病院はopen ICUで主治医制なので、外科医は術前管理から手術、術後全身管理のコンダクターでなければなりません。僕は1.4件/dayのペースで術野に入り、回診、術後管理を研修しましたが、非常に体力的に厳しかったです。そして何より精神的にかなり疲弊しました。中でも、術後癒着性腸閉塞を繰り返している方が、嘔吐物誤嚥により誤嚥性肺炎/化学性肺臓炎から敗血症になって夜中に亡くなられ、その直後から平然と膵十二指腸摘出術(PD)をこなすそのギャップに心境がついていけませんでした。

 

何より外科医はいつも落ち着いている。おそらく、普段からイメージトレーニングを行っており、頭の中でマニュアル化ができているのではないかと思います。また、麻酔と挿管の準備を行っている際にオーベン「準備が一番大切で、それができれば手術の9割は終わっている。」と言われたことも鮮明に記憶に残っている。今でこそ、V-line確保や尿道バルーンはそれなりにできるようになったが、最初は何を準備してよいかさえわからず、うまくいかなかった際のことなんて全く考えられていなかった。外科医の落ち着きの背後には相当量の経験と苦学が隠されていることを感じました。

 

作中では、ヒトの体を切るという外科医の責任と「人の命」に親身である研修医の立場と冷静に専門的に対処する外科医の境界が描かれています。

 

叱咤され、自分の無力さを思い知らされつつもメスを握る、外科医の精神力を心から尊敬しています。自分には到底できないと思っています。逃げ出しちゃうわ、絶対に。

 

久しぶりの書評というか感想というかで終わり方忘れました(笑)

まとめ

外科医は余計なことは口にしない。無駄口がないことで、発言全てに意味があることになる。