【医学目線で書評】もしドラ
こんにちは。stayfoolish@研修医です。
ステイホーム週間が始まっていますね。自粛ムードが高まってきており、なにかと3密が口癖のようになってきている人は多いんじゃないでしょうか。サンミツダワサンミツ
一方でやっぱりちょっと自粛ムードが過剰なのかなーとも思ったり。先行き見えないまま「ここ1,2週間が正念場」と言われても全く刺さる言葉じゃなくて。。。
言い方を変えると「今こそ、大切な人と密な時間を過ごすとき!」
とコピーライター的には表現出来たり(笑)
個人的に今は表現の仕方について興味持ってて、試行錯誤しながら本を漁っている最中です。やっぱり、表現が上手で引き出しが豊富な人は心から真似したいなーって思えますね。ソコニシビレルアコガレルー
けれどもけれども、
総合診療界隈の巨匠、徳田安春先生曰く「PCR未施行で疑似症の軽症者こそ、ホテルなどを利用して徹底的に隔離すべき」と。
現在、PCR検査がどんどん拡大されて検査数自体も増えてきていますが、大切なのは死亡者を減らすために感染者数を減らすという基本的な考え方。PCR検査は感度70%で、特異度90%後半と言われています。偽陰性を減らすために2回検査をすべきで(0.3*0.3=0.09となり偽陰性は10%弱に低下します)、陽性的中率は忘れましたが、偽陽性も含めて隔離するという方針が推奨されていきています。怪しい芽は早く紡ぐという発想ですかね。自宅隔離していても、結局は家庭内感染が問題となりますし。
てなわけで、
本日は、2009年に発売され、売れるに売れた(300万部突破!)、その名を聞いたことはない人はいないという「もしドラ」の書評をします。もしドラは知っていても何の略かはわからないし、読んだことがない方も多いんじゃないかと邪推します。ジャスイノツカイカタマチガッテルキガスル
ちなみにもしドラは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の略です。
一言でまとめるなら、
野球部の女子マネージャー×(マーケティング+イノベーション)
といった感じでしょうか。イマイチマトマリガ
著者について
岩崎夏海さん、秋元康さんの弟子でAKBのプロデュースに貢献。もしドラは自身で第一作目。
ある日突然、秋元康さんに「女子高生をテーマにした小説を書いてくれ」と頼まれたことからもしドラは始まった、らしいです。岩崎さんは、ちょーーどその直前にドラッカーの「マネジメント」を読み、これを小説に落とし込みたいとの一心でもしドラを書き下ろしました。
ドラッカーについて説明すると、「経営学の父」と言われている人です。2005年に亡くなりました。「人をハッピーにすること」を理念に持ち、社会(組織)の中の人間を生涯にわたり追求しました。「マネジメント」は彼の最高傑作、もとい経営学史上最高傑作となり、世界で最も読み継がれている名著です。
(ちなみにちなみに
「経済学の父」は需要供給曲線でおなじみ「国富論」のアダム・スミスさんですよね。「資本論」を読んでみた身としては次に読んでみたい一作です。)
そんな「マネジメント」を読んだ岩崎さんが、野球部の女子マネージャーにマネジメントさせるといった、ワクワクドキドキの傑作がもしドラなのです。
作品の概要
弱小ダメダメ野球部を主人公で女子マネージャーのみなみちゃんが「マネジメント」し、甲子園に連れていくという高校生の青春物語をベースとして、経営とは/社会とは/組織とは/を具体的に教えてくれるという内容になっています。
ついに最後の最後には、感動の結末が待っており、僕の目頭が熱くなってしまいました。マサカソンナケツマツニナルトハ
キーワードは「マーケティング」です。
まずはじめに、野球部とはなにかという定義付けから始めます。そしてみなみちゃんは野球部とは「野球に関わる人々に感動を与える部」ということで定義します。
次に最も大切なステップである、「顧客とはだれなのか」を考えていきます。感動を与えられるのは、観客はもちろん、部員の家族であったり、学校の生徒、そして野球部員自体にも当てはまると結論付けます。
まずは、野球部員の一人一人をマーケティングして、詳しく各々の価値感と欲求を把握することから始めます。具体的には、顧問の先生を含め、部員全員と一人一人に面談をしてマーケティングをスタートさせます。
ここでやっと顧客の価値観と欲求を把握することができました。次のステップは「役割を持たせ、働きがいを与える」ことです。ここはかなり共感できましたし、働き始めの僕には、骨の髄まで染みわたるような教訓的なことが盛りだくさんでした。
ここで「マネジメント」p74の一節を紹介します。
働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。
By ドラッカー
そうしてみなみちゃんは野球部を組織化していきます。具体的には、チーム制を導入したり、チーム内での役割を明確化させ責任を持たせたりして、人の強みを生産的なものにしていきます。
もう一節だけ「マネジメント」から借りると
組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することにある。
By ドラッカー
マネジメントされてきた野球部は次のステップである「イノベーション」に取り組むことになります。イノベーションに関しては岩崎夏海さんの第二作「もしイノ」に詰め込まれていますので、そちらで紹介します。
本作では、マネジメントを実際に落とし込んでいく様子が詳細に描かれており、小説としても楽しめる一作になっておりますので、実際に甲子園までの軌跡を知りたい方は是非お手元にとって作品をお楽しみくださいな。1時間ほどで読めちゃいます。
考察・批評
エピローグでは、甲子園出場が決まった際のキャプテンに対するインタビューの様子が描かれています。
「甲子園では、どんな野球がしたいですか?」
「あなたは、どんな野球がしてもらいたいですか?」
「え?」
「僕たちはそれを聞きたいのです。僕たちは、それをマーケティングしたいのです。なぜなら、僕たちは、みんながしてもらいたいと思うような野球がしたいからです。僕たちは、顧客からスタートしたいのです。顧客が価値ありとし、必要とし、求めているものから、野球をスタートしたいのです。」
なんだこのキャプテン、抜かしおって!!と思うかもしれませんが、
最後まで作品を読んできた方なら「うんうん」とうなづける台詞になってます。
個人的には最後のキャプテンのこの台詞こそ作者の岩崎夏海さんが喉の奥から出かかっていた言葉がついにもれてしまった一幕かなと感じています。めっちゃ好きです!!この台詞。
経営学は個人的に興味があって、組織を作り上げることをずっと学びたいと思ってきました。そしてこのような全体像を把握できる素晴らしい作品に出会えて本当に幸せだなって心から思います。
「資本論」では、資本主義経済を規定するもの、「商品とはなにか?」という疑問から始まりました。それは労働である、という解答で説明されました。
「マネジメント」では、その商品をいかに顧客に届けるかということを効率化させるためのtipsが詰まっています。まずは「顧客はだれで、何を望んでいるのか」という疑問から始めます。その次には、自分が持てる人材をいかに組織化するかに注力します。責任と働きがいを与えるのです。
「マーケティング」するということは、めちゃくちゃ応用が効く、汎用性が高い考え方だと感じました。
医療に当てはめてみると、顧客は患者さんであることはもちろん、多職種、他診療科、そして自分たち自身でもあることが言えます。診察することは患者さんをマーケティングしていくことだと思います。患者さんの価値観を知り、欲求を見定めたうえで、一定の折り合い点を共に探していくという作業かなと思っております。
また医療従事者におけるチームの役割も「働きがいと責任」が応用されていると感じます。働きがいを与える三原則を再掲します。
- 生産的な仕事をすること
- フィードバックがあること
- 生涯学習ができる環境があること
この中でもフィードバックがあることがあまり医療従事者で行われていないと感じます。いわゆるやったらやりっぱなしというわけです。自分自身でのフィードバックや振り返りはそれこそ自分でできますが、自分では気づかないことにこそ価値があり、そこをフィードバックしてもらいたいものです。
特に多職種カンファランスなんかでは、お互いの職種を尊重している?あまりか仕事を縦割りしすぎて多職種の仕事内容に首をつっこまないというのが美徳化されているのでしょうか。
しかし「マネジメント」では、適切にフィードバックがあったほうが、働きがいを感じられると書いてありますし、実践的であると僕は思います。伝え方は非常に重要になってくるかと思いますが、フィードバックをお互いに交換できるような環境を上手く作っていければと思います。
まとめ
まずは自分の職場においてマーケティングされている例や、まだマーケティングされていない例を探し出していきたいと思います。
そこ!、マーケティングさせてください!!と心の中で呟きますね(笑)
いま「もしイノ」、もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「イノベーションと企業家精神」を読んだらを読んでいますので、また書評を上げていきたいと思います。
それでは!