Dr.すてふの備忘録@岐阜

旅と、競馬と、時々医学。

【些末なER診療】Painless Myocardial Infarction

こんにちは。Stayfoolish@研修医です。

さっそく本日の学びです。世にも恐ろしい無痛性心筋梗塞を経験しました。

  • 冷汗のエピソードには、こちらも冷や汗をかくべし。TROPの重要性!

 

症例です。

58歳、男性。2日前からの嘔吐、下痢、食欲不振があった。来院日、近医受診したところ、医院の玄関で悪心が増悪し、冷汗があったため、救急搬送された。BP 150/70, HR 75, RR 20, SpO2 98ra、T 37.9。受け答えはしっかりしており、けろっとしている。

 

といった感じ。後から冷汗の情報を付け加えたものの、救急隊による「冷汗があったそう」という情報のみ。発熱があったため、PPE対応。

 

~わいの頭の中~

嘔吐、下痢、発熱。腹痛はないけど、消化器疾患、非消化器疾患といった感じでやっていこう。ウイルス性腸炎は限りなく怪しい。神経学的所見は大丈夫で、中枢神経って感じではなさそうだな。いや待てよ、の割には腹部所見があまりに乏しい、どこにも圧痛がないんだよね。うーん、困った困った。けど、General Vital問題ないから腹部CTコースでいっかな。

~Vgasが届いて腹部CTへ~

まじで正常、何もないの。本当に嘔吐、下痢あったんかいな?いやーまあ大丈夫っしょ。腹部CTはCriticalなのなさそうだなー。まあそもそも疼痛の局在ないし、何を絞って撮影したのかもわかんないんだけどねー。小腸の腸管浮腫あるからウイルス性腸炎でいっかな。帰る前に心電図だけとっとくかー。

 

からのがっつりSTEMI。下壁です。Mirrior imageも出てます。エコーでも動いてません。トロポニン>50,000です。オソロシヤー

すぐコンサルトして緊急PCIとなりました。

 

もう二度とこんな経験したくなく、とりあえず寝る前に無痛性心筋梗塞について調べておきます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

Full textは入手できずです。症例対象研究になります。仲田和正先生のようにまとめてみます。

最重要ポイントは次の4点です。

  1. STEMIの13%は無痛性。
  2. 高齢、女性、中国人、糖尿病に多い。
  3. 無痛性例は、失神、心窩部痛の主訴が多い。
  4. 28日死亡率は無痛性例の方が高い。

無痛性の方が死亡率高いのは、見逃されるからだと思いますね。気になったのは梗塞部位によって疼痛の出方に違いがあるのか、だけど全文読めずで残念。

 

今回の症例では、高血圧症、脂質異常症、喫煙歴とリスク高めでした。ECGして本当に良かった。怖いから高リスクではやっぱりRoutine ECGでもよいかもしれん。優先順位を考えて。

 

けど忘れ得ぬ1例になりました。今後に生かそう。

それでは。

 

 

【医学目線で書評】仮病の見抜きかた

こんにちは。stayfoolish@研修医です。

明けましておめでとうございます!麻酔科ローテで1/1,2.3は待機になっており、独りで新年を迎えております。27歳にして初めての独り年越しだったのかな。 

 

2021年は「時間の使い方」を意識していきたいなと思ってます。やりたいことはたくさんあるものの整理と優先順位が曖昧で、未実行に終わってしまうこと多くないですか?僕は去年そんな1年でしたワラワラ。

 

あと整理しなきゃなのは間違いなく書籍類ですねー。机の上は綺麗に保つことを意識しているのですが、どうしてももう本は限界っすキタナクテスミマセン。本棚は全然収納機能がないので元々買っておらず、100均のお助け本棚で頑張って積み上げていったものの、、

 

医学書は多いのですが、電子書籍で買えるものは移行していこうと思います。あとこの本棚も正月中にすぐ整理しようかな。先日楽天kobo電子書籍リーダーを購入しました。医学書以外はこっちで買っていこっと!

 

今日は國松淳和先生が執筆された一風変わった医学ノベル「仮病の見抜きかた」の考察をします。非常に面白く、こんな経験あったけど、考えずにスルーしていたなと思うことばかりで今後の診療の幅を広げてくれるきっかけとなる1冊と確信してます。

 

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著者について

南多摩病院の総合内科・膠原病内科の國松淳和先生。診断力はもちろん、観察力、思考力で非常に参考にさせて頂いてます。お会いしたことはもちろんありません(笑)。他にも「ブラックジャックの解釈学」、「不明熱・不明炎症レジデントマニュアル」、「Kunimatsu’s lists」等、多く執筆されています。

作品の概要

10人の患者さんを10症例としてではなく、10エピソードとして患者側、医療従事者側(特にレジデント)の心理の揺れ動きを書き下ろした医学書ノベルになってます。

考察・批評

研修医1年終わろうとしている中で今まで臨床に優れている医師は「多くのゲシュタルトを構築している医師」と認識していたが、本書を読んでそれだけではないことに気付かされました。何よりありありと書かれたエピソードのリアリティが凄まじく、今後印象に残った出来事はノベル調に書いていこうと。

 

医師には医師の仕事があり、死につながる病気、後遺症になるかもしれない病気を早期に見抜き、診断し、治療につなげるという職責がある。その一方で、それらを全て尽くしても患者の思いや願いとはかけ離れてしまうことがある。

2ポイント今後実際に活かせると思ったこと、①診断できない不快感をそのままにしないこと②言動より行動に着目すること

日常診療は診察⇒検査⇒診断⇒治療の流れが一般的です。検査診断をすっ飛ばして治療することもありますが、結局は治療にたどりつくのがほとんどだと思います。逆に治療法がなかったり、正しく診断できないために治療はできない症例に無意識のうちにイライラを感じてしまっているのは紛れもない事実です。やっぱり臨床をやる身としては目に見える改善がモチベーションになりますもんね。そこで患者さんが何に困っているか、どんな認識でいるのかを確認することが大切かなと思いました。言動より行動に着目するというのは非常にしっくりきました。子どもは言葉をうまく操れないので、行動に着目する他ありませんよね。成人の場合ももちろん同じですが、「嘘」をつくことができます。これは厄介ですよね。でも、行動に関しては嘘はつけませんよね。観察力が大切です。高齢者の場合は、言葉を話せない場合だったり、身体症状自体でにくい場合だってあります。

 

僕は研修医ですのでまだ「自分の患者さん」というのがありません。せいぜい関わるのは救急外来受診時だったり、入院期間中というほんの一部分にすぎません。患者さんにとっても医療機関受診は一部分にすぎないですが、その背景には様々な要素を含んでいます。そこに思いを馳せることは日常診療において非常に大切なことなのではないかと思わせる本でした。

まとめ

だらだら書いてしまいました。國松先生の世界観は面白く、他の本も読んでみたいと思いました。

ではまた!

 

【些末な日常診療】Edwardsiella tarda bacteremia

こんにちは。stay foolish@研修医です。

 

もうそろそろ2020年も終わってしまいます。コロナコロナの1年でしたが、本当にもう変動の1年だったように感じます。

 

外科系レジデント研修も終わりを告げようとしています。秒単位のaccessment⇒managementが必要とされる業界と感じました。

内科的視点での診療をする余裕はありませんでしたが、今から思えば最初で最後の貴重な経験になったかもしれません。気管挿管に関しては、difficult airwayも経験できましたし、気道管理に自信を持つことができたかな。けど、輪状甲状間膜穿刺はさすがに経験できんかったなア。

 

来月からは一変して小児科です。総合診療には、必須の経験になるのでこれまた準備して楽しんでやってこうと。

 

今回の粗末な日常診療ですが、たまたま見かけたEdwardsiella tarda菌血症についてです。

杖歩行週3回デイサービス利用中の91歳男性、肩関節痛を主訴に来院し、肩関節液貯留と炎症反応上昇を認めたため、入院治療となりました。関節穿刺、関節液培養、血液培養採取後、piperacillin/tazobactamが開始され、第1病日に血培2/2でGNRが検出されました。第3病日に、Edwardsiella tardaと判明、、

 

といった感じで、聞いたこともない新生物で、気になったので調べてみました。

google先生青本(第4版!)uptodateはなかなか教えてくれませんでした(泣)。外科レジデントでは一瞬たりともお世話にならなかったPubmedさんに久しぶりに聞いてみました。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6759260/pdf/18-0518.pdf

 

Edwardsiella tarda Bacteremia, Okayama, Japan, 2005-2016

Shinya Kamiyama et al, Emer ID, Oct 2019

 

倉敷中央病院におけるretrospective studyです。倉敷中央病院は感染症科/総合診療科があるようですね。こういった論文が出るわけです。

 

・182,668セット中の40セット(26患者)からE.tardaが検出された。

・E.tardaの臨床的特徴と30日死亡率を調査した。

 

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・年齢中央値は75歳。

・年齢65歳以上はE.tardaのリスク因子になる?(OR2.7 95%CI 1.11-6.55)

・30日死亡率は12%。

・肝胆道系感染症を起こしやすい。

 

Discussion)

・もともと腸管感染症を起こしやすく、Salmoellaに臨床的特徴が似ている。

・self-limitedで下痢の原因になりやすい。

・抗菌薬感受性は良く、βラクタマーゼを持たないことも。アンピシリンでいける。

 

Limitationはサンプルサイズや単独施設研究が挙げられています。

わい的には

臨床的にはそんなに悪い印象はなく、narrowな抗菌薬で効きそう。だけどやっぱり血管親和性は良いのかな。関節液から検出されるくらいだから。このおじいちゃんもしかしたら刺身とかよく食べててE.tardaをcolonizeさせてたかもしれん。

 

サルモネラは様々な臨床型、E.tardaは魚。臨床的特徴は似ている?親戚的なやつらなんですね。

 

ではまた!

【些末な日常】ゲーム理論って面白そう。

こんにちは。stayfoolish@研修医です。

 10月から3か月、麻酔/救急科での研修が始まっております。主にというかほとんど、麻酔科ではありますが、

 

僕はもっぱら内科志望ですが、ここまでの研修は外科レジデントのようなローテとなってますわ。

4月5月 内科

6月  外科

7月  消化器内科(消化器検査科ともいわれるほどほぼ手技至上科)

8月  心臓血管外科

9月  整形外科

10月-12月 麻酔科 ←いまここ

 

ERでの身のおきどころもようやく理解しはじめ、少しずつ手が動くようになってきました。と、同時に、基本事項を質問しづらいような雰囲気が出てきたのも感じてます。

 

とはいえ、初期研修中はあくまでも初期研修医なので疑問に思ったことは恥を恐れず、どんどん聞いていこうとは思ってます。ちょっとそこらへんのバランス感覚むずかしーですねぇ。

 

最近、BookCafeでまったりすることにはまってます。休日に早起きして回診してサイクリングしてBookCafeに行くのを午前中のルーティンにしていきたいですね。めちゃくちゃ充実感あります。

 

16歳からのはじめてのゲーム理論―――“世の中の意思決定”を解き明かす6.5個の物語-電子書籍

経済学って俯瞰的な視点で物事を冷静に見つめることができて最近よい気分転換になってます。たまたま、Facebookでおすすめされてたので、楽天市場お買い物マラソンで購入しました。

作品の概要

ネズミ視点で、人々の意思決定に深く迫っていきます。

めっちゃくちゃ読みやすいです。ささっと読み進めてしまいます。

おそらく著者がゲーム理論の本質を昇華させてくれたんだと思います。本質的なところはやっぱり難しそうですわ。

考察・批評

昔から(小学生くらいかな)自分が思っていたのは、ガソリンの値段ってどうしてみんな同じくらいにするんだろう。安くしちゃえばいいのに、って。

 

その疑問を払拭させてくれました。価格競争はさらなる競争を生み、コストへと限りなく近づき、やがて潰れるといった内容でした。本質的なこととしては、こちらが価格をさげれば相手はどう思うか、どう行動してくるかといったことを推測しておくこと、または相手の価格設定の思惑を考慮すべきこと、で「人が何をするのには、理由がある。」といったことを考えさせてくれました。

 

医療現場でも、患者さんの意思決定、つまり受療行動ですかね、かなり大切な情報ですし、ここにエッセンスがあるとも思います。

まとめ

ゲーム理論面白そうです。また本屋でふらっと読んでみようかな。

【些末なER診療】筋トレは最強のソリューション!?

こんにちは。stayfoolish@研修医です。

 

またまた間が空いてしまいました。カムバックしました。

これからは内容をよりsmartにして更新の閾値を下げていこうと思います。

 

先日、前々から拝見しているブログ「コミュニティーホスピタリスト@奈良」で「場末の臨床診断」を見て、大いに共感しました。

 

stayfoolishの研修病院ではER医が不在の3次救急で不慣れなPGY1/2がCTという高級なおもちゃを撫でまわし、病歴/身体所見が全くと言っていいほどなされていない、「とりあえず画像撮っとけ」といったプラクティスがなされていて、

 

不満タラタラなER当直でずっと憂鬱でした。ハイ

 

挙句の果てには、入院診療科のたらい回しに研修医が奮闘する始末・・・

 

主訴でCriticalな疾患をrule outして、「次の朝まで死なないように」を前提にやっていこうと思います。Crinical questionは「内科診断リファリンス」でしっかり詰めていかないとと思いました。

jyoutoubyouinsougounaika.hatenablog.com

というわけで、ちょっと精神的にも夏バテしていたとこでふと手にとったのがこの本

 

 

書評するよりまず実践しようと思います。

 

筋トレはやらない理由はないと思うので、歯磨きやお風呂同様、日常生活の一部として筋トレ始めていきたいと思います。

 

継続したいので、最初はゆるーく始めていこうかな。

 

ではまた!

【医学目線で書評】泣くな研修医

こんにちは。stayfoolish@研修医です。

 前回の更新からはや2か月がたとうとしてしまっております。

というのも、自分の心に余裕がなかったからなんです。ヨユウトアソビゴゴロ...

 

5月の連休明けから本格的に救急外来の仕事が任されるようになりました。何をするにあたっても葛藤の連続で、患者さんのみならず医療スタッフとのコミュニケーションに苦戦を強いられてばかりでした。

 

チョー基本的な物品の場所すらも全く分からず、上手な「聞き方」を模索する日々でもありました。

 

6月は外科のローテーションでした。始まって2日目の夜に消化管穿孔が2件来て、その日は一睡もできず、夕方のカンファで意識障害になっていたのを思い出します。肉体的にも厳しい外科ローテですが、個人的には精神的にかなりキツかったです。

 

そんなこんなで、精神的に追い詰められていた私にとって、読書の時間は非日常を味わえる嗜好の時間でした。特に、本屋で本を選んでいるときの時間が本当に恍惚です。

 

そしたらこんなタイトルの本が目の前に!

 

 

すぐさま手に取り、裏表紙の説明を読み、即決で購入しました。これがこれが、僕の外科研修の気持ちを代弁してくれていて、それでなお超感動作に仕上がっております。外科研修で自分が体験したことがほとんどそのまま詰め込まれており、個人的な感情移入もあり、3回ほど枕を濡らしました。スミマセン

 

今回は書評と外科ローテの感想をつらつらと。

著者について

現在40歳の現役外科医の中山裕次郎先生。圧倒的リアリティーで描かれる新人研修医の外科研修での心の葛藤を描いています。

 

news.yahoo.co.jp

YahooJapanのコラムも担当しています。作家でもあり、やはり医療のみならず、社会を観察する視点や文章力が素晴らしいと感嘆しております。

作品の概要

研修医は絶対に読んでください!必ず!

そこらの手術書や教科書よりも心に響く、研修医としての在り方に気付かされます。

 

医療従事者でない方にもおすすめです。これが、リアルな現場で、ポーカーフェイスな医師の心情がこれほど綿密に描かれている作品は、やはり現役外科医で多くの辛酸をなめてきた作者だからこそだと感じます。

 

ザックリと概要です。

研修医・・・

医者と非医療者の境界線に立った人間

そんな研修医が自分の無力さに打ちのめされながらもガムシャラに命と向き合い、成長していく姿が描かれています。

 

登場する患者さんを3人pick upします。

①5歳男児。高エネルギー外傷で腸管脱出、多臓器損傷があり、緊急ダメージコントロール手術を行い、ICU管理となった。主人公は毎日回診に行き、回復を祈るものの、状態は不安定そのもの。抜管できたと思いきや、嘔吐から誤嚥し再挿管。ICU退出するも、腸管拡張が増悪傾向で再手術も考えられたが、奇跡的に「おなら」が出ることによって状態は回復していった。

②94歳男性。重度の認知症があり、ADL寝たきりで独居のStage3胃癌。主人公は正義感から手術すべきとプレゼンするが、上級医は総意でBSC。「なんでだよ」と葛藤する主人公。本当の幸せとは何なのだろうか。

③25歳男性。大腸癌の多発肝転移/肺転移、腹膜播種があり化学療法中。癒着性腸閉塞で入院した。主人公とは同い年であり、実は患者さんは医学部受験に失敗している。初めての看取りを経験し、自分の無力さを痛感する。

考察・批評

直前の外科ローテもあり、外科医に対する考え方や印象がガラッと変わりました。

 

以前は、外科の先生は全身管理があまり得意でなかったり、抗菌薬の使い方がめちゃくちゃだったり、カルテがpoorすぎて意味わからんなどといったマイナスイメージばかり抱いていました。確かにそれは事実な部分もある・・・

 

外科ローテでの感想も含めて少々・・

 

 当初から抱いていた外科医の印象は同じ職場で働くことで大きく変わりました。以前は偏った見方しかできておらず、見解が狭かったことを思い知らされました。この2年の研修期間はほぼ毎月研修科が変わり、それはそれで非常にストレスフルですが、医師人生で二度とない経験が得られると思います。内科は個人的に好きで、学問的に多くを学びましたが、各々の科でスタンスが異なり、それを客観的に分析してまとめていきたいと思ってます。僕はおそらく将来的に様々な病院に勤務すると思うので、それらを比較して自分なりのプロブレムリストをまとめていきたいと思ってます。

 

印象に残ったのは「内科は診断学、外科は治療学。」とオーベンに言われたこと。診断のための画像の見方と手術をイメージする立場としての画像の見方は全くもって深みが違いました。一瞬で血管の走行を把握し、合併症を予測して手術のイメージをするのには驚かされました。

 

うちの病院はopen ICUで主治医制なので、外科医は術前管理から手術、術後全身管理のコンダクターでなければなりません。僕は1.4件/dayのペースで術野に入り、回診、術後管理を研修しましたが、非常に体力的に厳しかったです。そして何より精神的にかなり疲弊しました。中でも、術後癒着性腸閉塞を繰り返している方が、嘔吐物誤嚥により誤嚥性肺炎/化学性肺臓炎から敗血症になって夜中に亡くなられ、その直後から平然と膵十二指腸摘出術(PD)をこなすそのギャップに心境がついていけませんでした。

 

何より外科医はいつも落ち着いている。おそらく、普段からイメージトレーニングを行っており、頭の中でマニュアル化ができているのではないかと思います。また、麻酔と挿管の準備を行っている際にオーベン「準備が一番大切で、それができれば手術の9割は終わっている。」と言われたことも鮮明に記憶に残っている。今でこそ、V-line確保や尿道バルーンはそれなりにできるようになったが、最初は何を準備してよいかさえわからず、うまくいかなかった際のことなんて全く考えられていなかった。外科医の落ち着きの背後には相当量の経験と苦学が隠されていることを感じました。

 

作中では、ヒトの体を切るという外科医の責任と「人の命」に親身である研修医の立場と冷静に専門的に対処する外科医の境界が描かれています。

 

叱咤され、自分の無力さを思い知らされつつもメスを握る、外科医の精神力を心から尊敬しています。自分には到底できないと思っています。逃げ出しちゃうわ、絶対に。

 

久しぶりの書評というか感想というかで終わり方忘れました(笑)

まとめ

外科医は余計なことは口にしない。無駄口がないことで、発言全てに意味があることになる。

【医学目線で書評】もしドラ

こんにちは。stayfoolish@研修医です。

 

ステイホーム週間が始まっていますね。自粛ムードが高まってきており、なにかと3密が口癖のようになってきている人は多いんじゃないでしょうか。サンミツダワサンミツ

 

一方でやっぱりちょっと自粛ムードが過剰なのかなーとも思ったり。先行き見えないまま「ここ1,2週間が正念場」と言われても全く刺さる言葉じゃなくて。。。

 

言い方を変えると「今こそ、大切な人と密な時間を過ごすとき!」

とコピーライター的には表現出来たり(笑)

 

個人的に今は表現の仕方について興味持ってて、試行錯誤しながら本を漁っている最中です。やっぱり、表現が上手で引き出しが豊富な人は心から真似したいなーって思えますね。ソコニシビレルアコガレルー

 

けれどもけれども、

総合診療界隈の巨匠、徳田安春先生曰く「PCR未施行で疑似症の軽症者こそ、ホテルなどを利用して徹底的に隔離すべき」と。

 

現在、PCR検査がどんどん拡大されて検査数自体も増えてきていますが、大切なのは死亡者を減らすために感染者数を減らすという基本的な考え方。PCR検査は感度70%で、特異度90%後半と言われています。偽陰性を減らすために2回検査をすべきで(0.3*0.3=0.09となり偽陰性は10%弱に低下します)、陽性的中率は忘れましたが、偽陽性も含めて隔離するという方針が推奨されていきています。怪しい芽は早く紡ぐという発想ですかね。自宅隔離していても、結局は家庭内感染が問題となりますし。

 

てなわけで、

 

本日は、2009年に発売され、売れるに売れた(300万部突破!)、その名を聞いたことはない人はいないというもしドラの書評をします。もしドラは知っていても何の略かはわからないし、読んだことがない方も多いんじゃないかと邪推します。ジャスイノツカイカタマチガッテルキガスル

 

ちなみにもしドラは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の略です。

 

一言でまとめるなら、

野球部の女子マネージャー×(マーケティングイノベーション

 

といった感じでしょうか。イマイチマトマリガ

 

著者について

岩崎夏海さん、秋元康さんの弟子でAKBのプロデュースに貢献。もしドラは自身で第一作目。

 

ある日突然、秋元康さんに「女子高生をテーマにした小説を書いてくれ」と頼まれたことからもしドラは始まった、らしいです。岩崎さんは、ちょーーどその直前にドラッカーの「マネジメント」を読み、これを小説に落とし込みたいとの一心でもしドラを書き下ろしました。

 

ドラッカーについて説明すると、経営学の父」と言われている人です。2005年に亡くなりました。「人をハッピーにすること」を理念に持ち、社会(組織)の中の人間を生涯にわたり追求しました。「マネジメント」は彼の最高傑作、もとい経営学史上最高傑作となり、世界で最も読み継がれている名著です。

 

(ちなみにちなみに

「経済学の父」は需要供給曲線でおなじみ「国富論」のアダム・スミスさんですよね。「資本論」を読んでみた身としては次に読んでみたい一作です。)

 

そんな「マネジメント」を読んだ岩崎さんが、野球部の女子マネージャーにマネジメントさせるといった、ワクワクドキドキの傑作がもしドラなのです。

作品の概要

弱小ダメダメ野球部を主人公で女子マネージャーのみなみちゃんが「マネジメント」し、甲子園に連れていくという高校生の青春物語をベースとして、経営とは/社会とは/組織とは/を具体的に教えてくれるという内容になっています。

 

ついに最後の最後には、感動の結末が待っており、僕の目頭が熱くなってしまいました。マサカソンナケツマツニナルトハ

 

キーワードはマーケティングです。

まずはじめに、野球部とはなにかという定義付けから始めます。そしてみなみちゃんは野球部とは「野球に関わる人々に感動を与える部」ということで定義します。

 

次に最も大切なステップである、「顧客とはだれなのか」を考えていきます。感動を与えられるのは、観客はもちろん、部員の家族であったり、学校の生徒、そして野球部員自体にも当てはまると結論付けます。

 

まずは、野球部員の一人一人をマーケティングして、詳しく各々の価値感と欲求を把握することから始めます。具体的には、顧問の先生を含め、部員全員と一人一人に面談をしてマーケティングをスタートさせます。

 

ここでやっと顧客の価値観と欲求を把握することができました。次のステップは「役割を持たせ、働きがいを与える」ことです。ここはかなり共感できましたし、働き始めの僕には、骨の髄まで染みわたるような教訓的なことが盛りだくさんでした。

 

ここで「マネジメント」p74の一節を紹介します。

 

働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。

By ドラッカー

 

そうしてみなみちゃんは野球部を組織化していきます。具体的には、チーム制を導入したり、チーム内での役割を明確化させ責任を持たせたりして、人の強みを生産的なものにしていきます。

 

もう一節だけ「マネジメント」から借りると

組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することにある。

By ドラッカー

 

マネジメントされてきた野球部は次のステップである「イノベーション」に取り組むことになります。イノベーションに関しては岩崎夏海さんの第二作「もしイノ」に詰め込まれていますので、そちらで紹介します。

 

本作では、マネジメントを実際に落とし込んでいく様子が詳細に描かれており、小説としても楽しめる一作になっておりますので、実際に甲子園までの軌跡を知りたい方は是非お手元にとって作品をお楽しみくださいな。1時間ほどで読めちゃいます。

考察・批評

エピローグでは、甲子園出場が決まった際のキャプテンに対するインタビューの様子が描かれています。

 

「甲子園では、どんな野球がしたいですか?」

「あなたは、どんな野球がしてもらいたいですか?」

「え?」

「僕たちはそれを聞きたいのです。僕たちは、それをマーケティングしたいのです。なぜなら、僕たちは、みんながしてもらいたいと思うような野球がしたいからです。僕たちは、顧客からスタートしたいのです。顧客が価値ありとし、必要とし、求めているものから、野球をスタートしたいのです。」

 

 

なんだこのキャプテン、抜かしおって!!と思うかもしれませんが、

最後まで作品を読んできた方なら「うんうん」とうなづける台詞になってます。

 

個人的には最後のキャプテンのこの台詞こそ作者の岩崎夏海さんが喉の奥から出かかっていた言葉がついにもれてしまった一幕かなと感じています。めっちゃ好きです!!この台詞。

 

経営学は個人的に興味があって、組織を作り上げることをずっと学びたいと思ってきました。そしてこのような全体像を把握できる素晴らしい作品に出会えて本当に幸せだなって心から思います。

 

資本論」では、資本主義経済を規定するもの、「商品とはなにか?」という疑問から始まりました。それは労働である、という解答で説明されました。

 

「マネジメント」では、その商品をいかに顧客に届けるかということを効率化させるためのtipsが詰まっています。まずは「顧客はだれで、何を望んでいるのか」という疑問から始めます。その次には、自分が持てる人材をいかに組織化するかに注力します。責任と働きがいを与えるのです。

 

 

マーケティング」するということは、めちゃくちゃ応用が効く、汎用性が高い考え方だと感じました。

 

医療に当てはめてみると、顧客は患者さんであることはもちろん、多職種、他診療科、そして自分たち自身でもあることが言えます。診察することは患者さんをマーケティングしていくことだと思います。患者さんの価値観を知り、欲求を見定めたうえで、一定の折り合い点を共に探していくという作業かなと思っております。

 

また医療従事者におけるチームの役割も「働きがいと責任」が応用されていると感じます。働きがいを与える三原則を再掲します。

  1. 生産的な仕事をすること
  2. フィードバックがあること
  3. 生涯学習ができる環境があること

 

この中でもフィードバックがあることがあまり医療従事者で行われていないと感じます。いわゆるやったらやりっぱなしというわけです。自分自身でのフィードバックや振り返りはそれこそ自分でできますが、自分では気づかないことにこそ価値があり、そこをフィードバックしてもらいたいものです。

 

特に多職種カンファランスなんかでは、お互いの職種を尊重している?あまりか仕事を縦割りしすぎて多職種の仕事内容に首をつっこまないというのが美徳化されているのでしょうか。

 

しかし「マネジメント」では、適切にフィードバックがあったほうが、働きがいを感じられると書いてありますし、実践的であると僕は思います。伝え方は非常に重要になってくるかと思いますが、フィードバックをお互いに交換できるような環境を上手く作っていければと思います。

まとめ

まずは自分の職場においてマーケティングされている例や、まだマーケティングされていない例を探し出していきたいと思います。

 

そこ!、マーケティングさせてください!!と心の中で呟きますね(笑)

 

いま「もしイノ」、もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「イノベーションと企業家精神」を読んだらを読んでいますので、また書評を上げていきたいと思います。

 

それでは!